居直るバイク泥棒~嘘のような実話~
ん十年前の、昔話である。
私の通っていた大学の正規のバイク駐輪場から、学生のバイクが盗まれた。
同じ学生に違いないと目星を付けた被害者は、翌日、朝早く来て、ずっと見張っていたが、犯人は見つからなかった。
だが、二日目、それも図々しいことに、犯人がそのバイクに乗って、堂々と通学してきたのだ。
被害者と大学の守衛のおっさんとで、犯人に詰め寄ったが、犯人は、一向に認めようとしなかった。現に、盗難バイクにまたがっているのにもかかわらず、だ。
「これは俺のバイクだ」と主張し、購入した年月や経緯まで説明しだした犯人の様子がおかしいことに気が付き、詳しい説明を聞いたら、あっと驚く真相が明らかになった。
その犯人は、静岡出身で、愛知県の大学に下宿から通っている。バイクは、静岡で乗っていたものを、そのまま運転して持ってきた。
犯行当日、普通通り講義を終えた犯人は、普通通り、自分のバイクにまたがり、所定の鍵でエンジンを掛け(要、キック)、下宿に帰った。翌日は、講義がなかったので、行かなかった。で、犯行二日目、朝、いつも通りに登校したら、若い男が、泥棒呼ばわりして詰め寄ってきて、挙げ句の果てには、守衛まで加わって、泥棒扱いしてくる。仕方ないので、自分のバイクである旨、正当な主張をした、と言う次第だった。
実は、同じ鍵だったのだ。同じメーカー、同じ型、しかも、同じ色。全く同じバイクだった。そして、被害者の見ている前で、犯人の鍵を指したところ、見事に廻ってしまった。当然、被害者の鍵でも、問題なく廻る。全く同じ鍵であることが証明されたのだ。
通常、メーカーが付ける鍵には、いくつものパターンがある。あるにはあるが、上限もある。
そこで、こういう事が無いように、地域を変えて付けることになっているそうだ。たとえば、静岡と愛知のように。
それが、偶然、同じ大学に通うことになり、静岡と愛知の距離が、全くなくなってしまった。こんな嘘のような珍事が、本当に起きてしまったのだ。
自動車の場合、もう少しパターンが多く、地域も離せるので、起きにくくなっているようだ。
ちなみに、被害者のバイクは、「いつもと違う位置」で、ほこりをかぶっていたそうな。
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